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記事詳細 178号 2011年12月20日 10面「特集:インタビュー・話題 」

IT×新ビジネス創造者 -フォトレタッチの「こびとのくつ」社長・工藤美樹さん-

こびとのくつ株式会社 代表取締役社長 工藤 美樹 氏"修正"から"ない物を創りだす仕事"に進化

広告作品になくてはならないフォトレタッチ。この分野の中でもトップクオリティを要求されるマス広告の領域で活躍する工藤美樹さん。レタッチ専門集団、こびとのくつ株式会社(東京・中央)を束ねる腕利きのレタッチャーだ。彼女の人生から広告業界の現実が見えてくる。


目指すべきレタッチャーの姿とは アートとテクノロジ双方の翻訳者

広告に欠かせぬフォトグラフィック処理

透き通るようなキレイな肌。まろやかな唇。大きくて魅力的な瞳。

化粧品などのポスターで微笑むモデルたちは、例外なく超人的な美しさを持っている。もちろん、もとが美しいのは当然。しかし、美しさを商品として流通させるためには、フォトグラフィックの処理が欠かせない。

一部にはがっかりしてしまう読者もいるだろうが、事実である。どんなに完璧な美をもったモデルでも、最終段階での修正ゼロはほぼない。

女性の化粧がマナーとして受け取られるように、フォトグラフィックの修正は広告業界のマナーであり、必要条件。業界では「フォトレタッチ」と呼ばれる領域である。
昨今、広告業界の状況の変化や、テクノロジの進歩。動画・静止画による広告表現の多様化などの条件が重なり、フォトレタッチの仕事が注目されている。

職人でもあり「こびとのくつ」代表取締役の工藤美樹さんは言う。

「すでに私たちの仕事は単にレタッチという言葉では収まらなくなっています。そもそもレタッチって言葉は印象がよくありません。フィルム時代の"合成屋さん"みたいなイメージですよね。でも今は違ってきています」。

目の前にある写真を修正して「ハイ終了」という仕事から、「ない物を創りだす」仕事へと領域は広がっている。

7歳から絵の世界でセンスを磨く
そこにはIT技術の進歩が欠かせない。もちろん両輪としての「アートセンス」は必須。工藤さんの場合、その源泉は絵画だ。7歳のころから絵を描き始め、以来成人するまで一貫して「絵」の世界を生きた。

「でもなかなか食べていけないんですよね」。

4年間、家賃2万3000円の下宿に住み、一時は1カ月の食費が2000円だったこともあった。

子供のころから伝統工芸に強い魅力を感じていた工藤さん。地元・仙台で高校を卒業後。上京して漆の人間国宝への弟子入りなどを経験しながら、美術学校に通った。

「自分のモラトリアムな状態を打破したくて、作品を持ってデザイン事務所などをめぐりましたが、なかなか思うような仕事もない。自分としても今ひとつしっくりこなくて」。

中古のMacを買い独学で覚える
このころに意識し始めたのがITの技術だった。

「どこに行っても、これからデザインで生きていこうと思ったらコンピュータ処理を覚えないとだめだよって言われたんですね。そこでさっそく中古のMacを買い独学で覚えました」。

そんな時、通っている学校に講師として来たのが、株式会社アマナの取締役だった。

静止画・動画の撮影、後処理、スタジオ業務、フォトバンクなど。映像に関するデパートのような会社だ。

「今では東証マザーズに上場している大きな企業ですが、当時はまだベンチャーの雰囲気があって新鮮でした。結局ここに就職し、レタッチの仕事をするようになったんです。もう天職だと思いましたね」。

http://www.kobito.co.jp/アートとITのハイブリットな存在
フォトグラフィックの処理といっても、単なる「作業」ではない。

何をどうすればより魅力的な仕上がりになるか。色・配置・映っているモノの大きさ・空間……全ては適正か。

レタッチの作業には本来アートのセンスが求められる。しかし、当時はまだその意識が希薄だった。要するに「技術」はあっても「美術」がない。

「なので、たとえば一つの広告案件を仕切るアートディレクターがきて、絵についてディレクションしても、コンピュータのことはわかっているけど、美術の素養がないから話が通じない。空間を出すとか、色のヴァルール(色価)を整えるとか、そういうのって絵をやってきた人でないと分からない話なので」。

工藤さんは子供のころから絵を描いている。だから美術に関してはバイリンガルだ。日本語で考えるように、美術言語で考える脳を持っている。

──オペレーターだけの存在はいらない。一緒にモノを創る人材がほしい。

フォトレタッチ前(上)と後(下)を比較これは広告業界がレタッチの分野に対して示した要望だ。

工藤さんはピタリとはまった。

「絵も描けて、コンピュータの技術も持っているハイブリットな人材を業界が探し始めた時代だったのですね。それに自分には描くことから離れた生き方はできないって、よくわかってましたから。ここに自分の未来を見つけたんです」。

レタッチャーではなく「ヴィジュアルテクノロジスト」
モデルが有能なメイクアップアーティストを求めるように、映像作家は有能なレタッチャーを求める。 

やりたい方向。イメージを理解し、そこに向けてコミュニケーションをとりながら仕事をすすめる。

「レタッチャーというよりは多分、ビジュアルテクノロジストという名称が適当かなって思います。ビジュアルをテクノロジに置き換えて、実際にデータ化するのがわれわれの仕事です。アートだけでもだめ、テクノロジだけでもだめ。双方の翻訳者であること。それが目指すレタッチャーの姿です」。

これ、レタッチだけでなく一般の業務にもあてはまる。例えば営業。

顧客リスト、業務日報、メール作業の管理……など。ITの力を借りてより早くより正確にと効率化を追及することは可能だ。

ところがテクノロジだけに体重を乗せるとどこかで破綻をきたす。本来の業務を深く理解してこそのIT利用なのである。 

インタビューの最後にポツリと口にした工藤さんの言葉が印象的だった。「広告業界って派手な印象をもつ人も多いけど、わたしたちはあくまでも職人集団ですから、しっかりした技術力に立脚した堅牢な進歩を遂げていきたいですね」。

 (末並俊司)

 


 

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